村上醍醐です。
東野圭吾「変身」を読んでの書評・レビューです。
一言感想サマリー
脳移植が原因で、徐々に自分の性格が変わっていく恐怖を描いた作品。
娯楽エンタメ小説でありながらも、「自分」とはなんなのか、「生きている」とはどういうことなのか、ということを考えさせられる良作。
こんな人におすすめ
- ミステリー好きの方
- SF好きの方
- 「『自分』とは何なのか?」という問いに興味を惹かれた方
内容紹介
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。
感想
初版は1994年。再読です。
私は東野圭吾作品を数多く読んでいますが、特にこの頃(90年代中盤)の作品が好きです。ザ・SFミステリーという感じで。
今作も扱っている素材は一見難しい感じですが、すごく読みやすいです。
主人公の人格が徐々に変わっていく過程は、まるで自分が本当に変わってしまうかのようでした。
昔、真保裕一氏の『奇跡の人』という作品がありましたが、モチーフは殆ど同じです。
なのですが、こちらの『変身』の方が万人受けするかな、という印象。
それにしても、「その人がその人ではなくなる」というのは、もしかしたら死ぬことよりも恐ろしいことなんじゃないかと、改めてそう思わされます。
死ねば、そこで一つの終焉となりその人の生はもはや確定されます。
しかしあるとき、人格が入れ替わってしまうなどの事態が起こった場合、その人の後の人生というのは、果たしてその人のものといえるのかどうか……
こうした考えは昨今、アイデンティティ論が跋扈するようになってから論じられる話のように思います。
もしかしたら、人格の喪失=死とする考えもあるかもしれません。
どちらにしても、やはり死は怖い。世の中で一番恐ろしい。
一体、いつ人間は「死」を知ったんだろう?
自分の命が有限であることを知ってしまったのだろう?
ただ、それによって人間は様々なものを生み出してきたことも事実。
有限な生命をできるだけ長く有意義に過ごせるように。
そして、救いを求めて。
それは例えば、宗教や医術、娯楽などです。
人間だけが持っている技術は自分たちの生の有限性を知っているが故の産物なのです。
……そんな色々な想像を巡らせることのできる、よい作品でした。