村上醍醐です。
新井素子「チグリスとユーフラテス」読んでの感想です。
若干ネタバレ要素を含みますので、ご注意ください。
端的に表現すると、「やばい、すごいのきたこれ」という感じです。
今までに何作か新井素子作品読んでいますが、これが個人的な最高傑作です。
内容紹介
宇宙暦363年。惑星ナインに移住した人類は原因不明の人口減少をたどり、最後の子供・ルナがたったひとりナインに取り残される。「生きること」の意味を問う超大作。第20回日本SF大賞受賞作。
感想
SF小説の古典的題材――人類の滅亡を描いた作品ですが、その描写の仕方がさすが新井素子、狂気に満ちてます。天才的です。
あらすじ
遥か未来、惑星ナインに移住した人類は、人工子宮を活用して繁栄するが、何らかの原因で生殖能力が脆弱化し、ついに「最後の子供」ルナが誕生してしまった。ルナは、不治の病に冒され冷凍保存されていた過去の人々を起こし始め……目覚めた人々は僅かな生のロスタイムの中で自分の、そして惑星ナインの過去を回想する――。
感想詳細
モチーフはありきたりだけど、語り口がすごい。読んでて唸ります、本当に。
作品解説に「この物語は神の物語」だという一節がありましたが、なるほど確かに同感です。死ぬことを禁じられ、惑星ナインの女神となったレイディ・アカリ。彼女によって最後の子どものルナが新しく惑星ナインの神となり、そして、最後の最後には読者の我々が神となる……そのレトリックに気付いた瞬間、思わず「おお、なるほど!」と声に出してしまいました。
あと、お話の中に「人間はいずれ誰もが死ぬんだから、生きているうちにやりたいことやったもんが勝ち」という台詞がありますが、すごく好きです。
人生勝ち負けじゃないとか言いますが、それはあくまでも他人との関わりの中でされる批判。でも、自分が自分の人生に勝つか負けるかっていうのは正直あると思います。誰も自分を「生んでほしい」なんて頼んでいないですから、人生っていうのは無理矢理与えられたもの。
そんな人生に負けるなんて悔しくないですか?自分で買った喧嘩に負けるなら責任はその人にありますけど、人生に負けるっていうのは買った覚えのない喧嘩に負けるようなものですよ。
そんな理不尽なことあっていいもんか!――そう思うのです。
少しでも興味の湧いた人は、まずは第一章だけでも読んでみてください。新井節が炸裂してて、思わず引き込まれますから。
この人の女性の心理描写はとにかくすごい。どうして近年女流作家がこれだけ注目されてるのか。それには、この新井素子の存在を欠いては語れないと思います。文学界における女性作家の流れを大きく作った作家だと思います絶対。
そしてまた、今話題のライトノベルの一つの礎になったと言ってもいいかもしれません。あんな文体の小説なんて当時殆ど誰も書いてなかったではないでしょうか。
とにかく本作に限らず、新井作品は超オススメです。
これまでに読んだ新井素子作品紹介
「グリーン・レクイエム」…新井作品に嵌るきっかけになった作品。とにかく読みやすい。
「緑幻想」…上の続編。少々スケールが大きくなりすぎた感がありますが、雰囲気がすごく好き。
「おしまいの日」…女性の狂気が日記に表現されている問題作。下手なホラー作品よりよっぽど怖い。
「あなたにここにいて欲しい」…読むと精神的に圧倒されます。でも停まらない。それが新井クオリティ。
「二分割幽霊忌憚」…よくこんな話が思いつくなぁというほど荒唐無稽な話。まるで夢を見ているかのような。
「ひとめあなたに…」…地球滅亡を扱うSFだけど、すごくミクロな視点で語られます。「チグリス」とは逆方向のベクトルでありながら双璧をなすSFの傑作ではないかと。