村上醍醐です。
宮部みゆき「龍は眠る」を読んでの感想です。
内容紹介
嵐の晩だった。雑誌記者の高坂昭吾は、車で東京に向かう道すがら、道端で自転車をパンクさせ、立ち往生していた少年を拾った。何となく不思議なところがあるその少年、稲村慎司は言った。「僕は超常能力者なんだ」。その言葉を証明するかのように、二人が走行中に遭遇した死亡事故の真相を語り始めた。それが全ての始まりだったのだ……宮部みゆきのブロックバスター待望の文庫化。
感想
再読して、宮部みゆきの丁寧かつ綿密な筆致に改めて唸らされました。そして、女性作家にもかかわらずなのか、いや女性作家だからこそなのか、思春期の少年が持つ独特の空気感だったり切なさ、儚さが実に上手に描写されています。
ふと、初めてこの本に出会った頃のことを思い出しました。
小学生の頃、本は嫌いではありませんでした。むしろ好きな方でした。なんとなく「読書」というものにそれなりの自負があったのは事実です。
そんなとき、中学校に入ってから始めた通信教育の付録雑誌に、この宮部みゆきの「龍は眠る」が同年代が読んでいる推薦図書になっていました。
その記事を読んで、いかに自分の読書がまだ「子供」の域を出ていないのかを痛感し、面映いような悔しいような複雑な気持ちになったのを今でもはっきりと覚えています。
その頃はまだインターネットが普及していなかったので、レビューを読み漁ってから気に入ったものだけをクリックで購入なんて一種の未来予想図でした。本に関する情報源は限られていました。
学校で聞くのは、なんだか恥ずかしい。
お金はない。
行き着いたのは図書館でした。
当時立ち入ったことのなかった文芸書・文庫の棚で緊張感と高揚感を同居させながら目的のものを探しました。
その分厚い背表紙を見つけたときの衝撃は忘れられません。
537ページ。
最後まで読めるだろうか。字も小さい。
だがしかし。
そんな心配は杞憂に終わりました。ガッツリと宮部みゆきの紡ぐ世界観に浸かり、結局2日程度で読んでしまったのでした。
あの通過儀礼以来、まんまとミステリー好きになり、趣味が興じて、人間関係が広がったり深まったりすることも少なくありません。
そういった意味では本当に人生を変えた一冊とも言える、印象深い一冊です。